こんにちは!HRマネジメント編集部です。
近年、夏季における最高気温35度以上の「猛暑日」や40度を超える「酷暑日」の発生頻度は高まり続けており、もはや一時的な異常気象ではなく「夏の常態的な環境条件」として定着しつつあります。
こうした環境下において、従業員の安全と健康を確保することは、企業の社会的責任(CSR)であると同時に、労働契約法第5条に定められた「安全配慮義務」の核心をなすテーマです!
とりわけ、2025(令和7)年6月1日に施行された労働安全衛生規則の改正(いわゆる「熱中症対策の義務化」)は、これまでの「努力義務」や「マナー的な注意喚起」の域を超え、事業者に明確な体制整備と手順の周知徹底を法的義務として課す大きな転換点となりました。
義務化の施行から1年が経過した現在、現場ではどのような対策が進み、どのような実務的課題が浮き彫りになっているのでしょうか。
本記事では、厚生労働省の改正省令・通達に基づく「法的な義務化要件」を緻密に解説するとともに、帝国データバンクが実施した最新の企業動向調査(2026年7月公表)のデータを徹底分析します!
2025年6月施行「熱中症対策義務化」の法改正ポイントと対象範囲
まず、2025年6月1日に施行された労働安全衛生規則の改正内容について、法的な位置づけと義務化の具体的要件を整理します。
【法改正のポイント(労働安全衛生規則の一部改正)】
施行日:2025(令和7)年6月1日
概要 :熱中症を生ずるおそれのある作業現場において、事業者に「報告体制の周知」と「緊急時対応手順の周知」を義務付け。
義務化の対象となる作業条件(基準判定)
今回の法改正において、すべての作業場が無条件に対象となるわけではありません。
厚労省の基準では、以下の「環境条件(WBGTまたは気温)」と「作業時間」の両方を満たす作業が義務化の対象となります。

【注意】室内作業やオフィスワークにおける留意点
屋外作業だけでなく、エアコンが十分に効かない倉庫、工場、調理場、あるいは車両内などでの作業も上記基準に達する場合は対象となります。特に「直射日光がないから安心」と油断せず、WBGT値での管理が必須です。
事業主に義務付けられた「2つの柱」
今回の改正省令において、事業者が講じなければならない措置は大きく分けて「①報告体制の整備・周知」と「②緊急時対応手順の整備・周知」の2点です。いずれも「あらかじめ定め」「関係作業者に周知する」ことが明確に義務付けられています。
① 報告体制(連絡先・担当者)の整備と周知
熱中症は、本人自身が初期症状(めまい、立ちくらみ、軽い頭痛など)に気づきにくい、あるいは「これくらいで休むのは申し訳ない」と我慢してしまう傾向があります。また、意識障害が始まると自力で助けを呼べなくなります。
このため、事業者は以下の者が速やかに報告できる体制を事前に構築し、周知しなければなりません。
報告を行う主体
熱中症の自覚症状がある作業者本人
熱中症のおそれがある作業者を見つけた周囲の作業者
整備・周知すべき内容
事業場ごと(または現場ごと)の報告先・担当者の指名
報告の具体的な連絡ルート(内線、専用電話、インカム、緊急ボタン等)
② 熱中症の症状悪化を防止するための緊急時対応手順の整備と周知
症状が発生した際、現場が混乱して処置が遅れると重篤化や死亡事故に直結します。
事業者は以下の4つの要素を含む緊急対応手順をあらかじめ策定し、周知することが求められます。
作業からの離脱・避難
涼しい場所(冷房の効いた室内や日陰の風通しのよい場所)への速やかな移動手順
身体の冷却
首元、脇の下、股関節などの太い血管への氷嚢当て、ファン衣類の活用、経口補水液の給与などの具体的処置
医師の診察または処置
医療機関へ搬送する判断基準(意識障害の有無、自力での飲水可否など)および手配手順
緊急連絡網・搬送先の整備
事業場における緊急連絡網、最寄りの救急病院・協力医療機関の連絡先および所在地の明確化
データで見る「熱中症対策」の現在地(2026年最新調査より)
法改正から1年が経過した現在、日本企業の熱中症対策はどこまで進み、どのような課題に直面しているのでしょうか。
株式会社帝国データバンクが2026年7月に公表した「猛暑・酷暑に関する企業の動向アンケート」(全国1,194社回答)の最新データから、実態を紐解きます。
猛暑・酷暑による業務への支障:全体の「50%」が影響を実感
調査によると、最高気温35度以上の猛暑日や40度以上の酷暑日において、業務や事業活動に「大きな支障が出た(6.5%)」「やや支障が出た(43.5%)」と回答した企業は、合わせて50.0%に達しました。
実に半数の企業が暑さによる業績・生産性へのネガティブな影響を受けています。
【猛暑・酷暑による業務への支障(企業割合)】
■ 支障が出た(合計):50.0%
├ 大きな支障が出た:6.5%
└ やや支障が出た :43.5%
■ 支障は出ていない :44.2%
■ 不明・その他 :5.8%
業界別の顕著な格差
業界別に見ると、直射日光下の作業や高温環境での業務が多い業界で深刻な結果となっています。
建設業:73.6% の企業が「支障あり」と回答
農・林・水産業:66.7% の企業が「支障あり」と回答
現場からは「集中力の低下による作業効率の激減」「現場事故のリスク増大」「熱中症発症による緊急作業中断」といった切実な声が上がっています。
また、警備業や各種サービス業、医療・福祉(訪問介護・入浴介助等)の現場でも、高温環境下の業務継続が大きな負担となっています。
対策の実施状況:約9割(87.8%)の企業が対策を開始・強化
「最近1〜2年以内に猛暑・酷暑対策を開始、または強化・拡充した」と回答した企業は87.8%にのぼりました。
法改正の波及効果と連年の酷暑対応として、日本企業のほぼ全社が何らかの熱中症対策に着手していることが分かります。
実施されている具体的施策トップ5
企業が実施・強化している対策の具体的内容(複数回答)は以下の通りです。
1位:水分・塩分補給品の支給(61.2%)
2位:空調設備や遮熱シート、扇風機の使用・増設(47.8%)
3位:熱中症予防・重篤化防止の学習と周知(大企業中心に高い水準)
4位:休憩時間の追加・延長(中小企業中心に採用)
5位:空調服・ファン付きウェア等の熱対策資材の導入
「企業規模」で異なる対策アプローチの傾向
同調査では、企業の規模によって採用する対策のトーン&マナーに明確な違いが見られました。
■ 大企業の傾向:【組織的・管理的な仕組み化】
・「熱中症予防・重篤化防止の学習と周知」(61.2%)が高水準
・マニュアルの整備、Eラーニングによる教育、運用ルールの厳格化
■ 中小企業の傾向:【現場即応・柔軟な制度運用】
・「休憩時間の追加・延長」
・「就業・営業時間の短縮やシフト変更」
・「臨時休暇の設定」など、柔軟なワークスタイル変更
先進企業で見られるユニークな先端取り組み事例
・IoT・バイオデータの活用:ウェアラブル端末やスマートウォッチを用いて「深部体温」や「心拍数」をリアルタイムでモニタリングし、危険域に達すると自動アラートを出す仕組みの導入。
・設備投資による根本解決:工場の屋根への遮熱塗料塗布、大型スポットクーラーの導入、休憩室の増設・冷房強化。
・福利厚生・生活支援の拡充:清涼飲料水・経口補水液の完全無償配布(オフィス内自販機の無料開放など)。
人事・労務担当者が今すぐ点検すべき「実務チェックリスト」
法改正から1年が過ぎた今、多くの企業で「制度や規程は作ったが、現場で形骸化している」「協力会社や発注元との調整が難航している」という新たな課題が発生しています。
人事・労務担当者が自社の運用体制をアップデートするための「実務点検チェックリスト」を以下に示します。
チェックリスト:自社の熱中症対策「実効性」評価
① 対象作業場の漏れなき抽出
屋外現場だけでなく、工場・倉庫・店舗裏・厨房・配送車内など、気温31℃/WBGT28℃以上になり得る場所をすべてリストアップできているか?
② 報告ルートの「可視化」と「即時性」
単に「上司に報告」ではなく、「具体的に誰(役職・氏名)・どこ(内線・連絡先)」が明記されたポスターやシールが現場に掲示されているか?
ヘルメットや作業服、モバイル端末等に緊急連絡先を貼付しているか?
③ 救護マニュアルと資機材の整備
冷却用資材(氷嚢、保冷剤、ファン付きウェア、経口補水液など)が期限切れにならず常備されているか?
搬送先の「最寄りの救急病院の名称・住所・電話番号」がリスト化されているか?
④ 協力会社・派遣社員を含む安全管理体制
自社社員だけでなく、同じ現場で働く下請業者・協力会社・派遣スタッフに対しても報告体制と手順が共有・適用されているか?
⑤ 発注元・顧客に対する調整・交渉
酷暑時の作業中断や休憩時間延長について、発注元や取引先と事前に取り決めや理解を得る働きかけを行っているか?
現場の形骸化を防ぐ!人事主導の施策展開ステップ
熱中症対策を単なる「ポスター貼付」で終わらせず、実効性の高い組織文化にするための4ステップの具体手順を解説します。
ステップ1:環境計測の仕組み化(WBGT値の可視化)
気温だけでなく、湿度や輻射熱を考慮したWBGT(湿球黒球温度)測定器を現場に配置し、毎朝および気温が上昇する昼前後に計測・記録する運用をルール化します。
「WBGT28度を超えたら15分毎に休憩」「31度を超えたら原則屋外作業中止」など、数値に応じた機械的な判断基準(トリガー)を設定しておくことで、現場責任者が迷わず判断できるようになります。
ステップ2:「報告=正義」とする心理的安全性と組織風土の醸成
熱中症対策において最大の敵は、作業者の「これくらいで休んだら格好悪い」「周りに迷惑がかかる」という我慢です。
人事・労務側から、「体調の異変を報告することは、重大事故を防ぐ素晴らしい貢献である」というメッセージを繰り返し発信し、報告を行った作業者やそれを見つけた同僚を賞賛する風土を作りましょう。
ステップ3:教育・研修の定期実施(マニュアルの形骸化防止)
毎年5月〜6月のタイミングで、全社的な「熱中症予防研修」を実施します。 研修では単に講義を聞くだけでなく、「同僚が作業中に急にふらついた場合のロールプレイング」や「実際の連絡網を使った緊急呼び出し訓練」を取り入れると、緊急時の反応速度が飛躍的に向上します。
ステップ4:発注元や取引先とのパートナーシップ構築
特に建設業や警備業、運送業などでは、自社単独での作業時間変更が難しい場合があります。
帝国データバンクの調査でも、「十分な熱中症対策を実施するには発注元の理解や協力が不可欠」との声が多く見られました。
営業部門や調達部門と連携し、「酷暑期における工程管理のゆとり確保」「熱中症対策費用の見積もりへの計上」について取引先と協議するガイドラインを作成しましょう。
人事労務が知っておくべき「安全配慮義務」と法的リスク
万が一、自社の作業現場で熱中症による重篤化事故や死亡事故が発生した場合、企業および経営陣・管理職が負う法的リスクは極めて甚大です。
■ 損害賠償責任(民法第415条 債務不履行 / 第709条 不法行為)
安全配慮義務違反として、数千万円〜億単位の損害賠償を請求される可能性。
■ 刑事責任(業務上過失致死傷罪)
現場責任者や安全管理者だけでなく、法改正に伴う体制整備を怠った経営幹部が問われるリスク。
■ 行政処分・送検公表
労働安全衛生法違反による是正勧告や、悪質な場合の労働局による社名公表・送検。
■ 企業ブランド・採用への壊滅的打撃
「ブラック企業」としての評判定着、求職者の離脱、人的資本経営(ESG)評価の急落。
2025年6月の規則改正により、「周知や手順の策定」が法的義務となったため、これらを怠っていた状態で事故が起きた場合、「安全配慮義務違反」があったと認定されるハードルが格段に下がったと言えます。
つまり、人事・労務担当者が法改正に沿った体制を整備することは、従業員の命を守るだけでなく、「企業そのものを破滅的リスクから守るリスクマネジメント」に直結しています。
熱中症対策義務化に関するよくある疑問(FAQ)
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A
原則として常時冷房が効いているオフィスは対象外ですが、油断は禁物です。 WBGT28度未満・気温31度未満に管理されたオフィス内での通常のデスクワークであれば、今回の省令で定める作業には該当しません。ただし、エアコンが故障した場合や、倉庫整理・イベント設営などの一時的作業、通勤時・営業移動時の猛暑対策については、安全配慮義務の観点から周知や対応策を行っておくことが推奨されます。
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A
「関係作業者が常時容易に確認できる状態」にしておく必要があります。 単に「社内イントラネットの奥深くにPDFファイルを置いておく」だけでは、現場の作業員に周知されたとみなされない可能性があります。以下の組み合わせによる周知が実務上効果的かつ確実です。
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A
定額減税は、物価高騰対策として実施された一時的な減税措置です。一方、給付付き税額控除は税制の中に組み込まれる恒久的な制度として議論されています。どちらも税負担を軽減する仕組みですが、制度の目的や運用方法に違いがあります。
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A
混在作業を行う現場(元請・下請関係)では、統括管理の一環として周知・共有が必要です。 元請事業者には、現場全体の安全衛生を統括管理する責任があります。自社社員だけでなく、同一現場で働く下請業者の作業員に対しても、共通の「緊急連絡ルート」や「救護手順」「冷却休憩所の場所」を周知徹底してください。
おわりに:従業員の安全確保を「人的資本経営」の推進力へ
熱中症対策の義務化は、企業に対して一定の設備投資や運用の手間を強いる側面があります。しかし、これを単なる「コスト」や「規制対応」と捉えるのは早計です。
熱中症対策に真摯に取り組み、従業員が安心して働ける環境を整える企業姿勢は、以下のような大きなリターンをもたらします。
生産性の維持・向上:適切な休憩と冷却により、暑さによる集中力低下やミス・事故を大幅低減。
エンゲージメントの向上:「会社が自分たちの安全を本気で守ってくれている」というエンピリカルな信頼感醸成。
採用力・企業価値の強化:人的資本開示(ESG)において「安全衛生」「健康経営」の優良企業として評価され、優秀な人材を引きつける強力なアピールに。
猛暑が定着した時代において、熱中症対策は人事・労務戦略の最優先項目です。
本記事で解説した法改正要点と実務チェックリストを活用し、貴社の安全衛生管理体制をより強固なものへとアップデートしていきましょう。
【参照元】
厚生労働省・富山労働局「職場における熱中症対策の強化について(令和7年6月1日施行)」
株式会社帝国データバンク「猛暑・酷暑に関する企業の動向アンケート(2026年7月公表)
HRプロ「熱中症対策義務化から1年、企業の“酷暑・猛暑対策”の現在地は?」
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