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夫婦別姓は企業にどんな影響がある?人事・労務担当者が今から確認しておきたい実務ポイント

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夫婦別姓

こんにちは!HRマネジメント編集部です。

昨今、選択的夫婦別姓をめぐる議論が社会的にも、そしてビジネスの場でも大きな注目を集めています。

「もし法改正されて義務化や選択制が導入されたら、自社の体制はどうなるのだろうか」と、今後の動向を注視している人事・労務担当者の方も多いのではないでしょうか。

しかし、企業にとって重要なのは「法改正されてからどう動くか」だけではありません。
実は、法改正の有無にかかわらず、すでに多くの企業が「氏名と実務」にまつわる複雑な課題に直面しています。
女性のキャリア継続やダイバーシティ&インclusion(D&I)の推進にともない、法改正を待たずに「旧姓(通称名)の利用」を希望する従業員が急増しているためです。

本記事では、政治的な賛否を論じる「制度論」ではなく、企業が明日から直面する「人事実務」の切り口に特化し、夫婦別姓や旧姓利用が企業に与える具体的な影響から、トラブル事例、そして変化に強い組織づくりのための運用設計まで、解説します。

なぜ今、法改正の前から「夫婦別姓・旧姓利用」の対策が必要なのか?

議論の現状とビジネスへの波及

日本における民法(第750条)では、結婚の際に「夫又は妻の氏を称する」と定められており、夫婦同姓が義務付けられています。
しかし、共働き世帯がマジョリティとなった現代において、改姓にともなう諸手続きの負担や、それまで築いてきた仕事上のキャリア(ネームバリュー)が途切れることへの懸念から、選択的夫婦別姓の導入を求める声は年々高まっています。

経済団体からも、国際的なビジネス基準への適合やジェンダーギャップ解消の観点から、早期の法制化を求める提言が相次いで出されるようになりました。これにより、最高裁判所の判断や国会での議論の行方に注目が集まっています。

「法改正の有無」にかかわらず、現場はすでに動いている

ここで人事・労務担当者が認識しておくべきなのは、「国が法律を変えるかどうか」と「自社の従業員が旧姓利用を希望するかどうか」は別問題であるという事実です。

現在でも、国の法改正を待たずに、社内制度(通称名使用制度など)を設けて「結婚後も旧姓のまま働くこと」を認める企業は珍しくありません。
むしろ、優秀な人材の流出を防ぎ、採用市場での競争力を高めるために、旧姓利用の認可は必須の要件となりつつあります。

しかし、明確な運用ルールがないまま「本人が希望しているから」と口頭や個別の現場判断で許可を出していると、のちにバックオフィス部門で甚大な混乱が生じることになります。

夫婦別姓・旧姓利用が企業の実務に与える影響

「氏名」は、企業が従業員を管理・把握し、法令順守(コンプライアンス)を果たすための最も基本的な識別情報(キー)です。
そのため、1人の従業員に対して「戸籍名(本名)」と「旧姓・通称名」の2つが存在するだけで、影響が及ぶ業務は想像以上に多岐にわたります。

人事・労務、そして周辺のバックオフィス業務において、どのような影響があるのかを網羅的に見ていきましょう。

人事マスター・労務管理への影響

すべてのベースとなる「社員情報(人事マスターデータ)」の持ち方が複雑化します。
システム上で「戸籍名」と「社内表示名(旧姓)」の2つのフィールドを持てない場合、どちらか一方を備考欄にメモするなどの運用の工夫が必要になります。
これが、異動履歴の管理や評価データの紐付けミスを誘発する原因となります。

給与計算・銀行振込への影響

給与計算業務において注意すべきは「銀行口座名義」との整合性です。
従来、銀行口座は本人確認の観点から戸籍名での開設が原則でした。
しかし近年、主要銀行を中心に「旧姓名義の口座開設・維持」を認める金融機関が増加しています。

企業側で「社内表示名が旧姓だから、振込データ(全銀データ)も旧姓で送る」と一律で処理してしまうと、従業員が口座名義を戸籍名(新姓)に変更していた場合に名義不一致エラーが発生します。
従業員が「どの名義の口座を使用しているか」を個別に把握し、給与システムと紐付ける運用の徹底が必要です。

社会保険・労働保険・税務手続きへの影響

健康保険証、厚生年金、雇用保険、労災保険、そして源泉徴収票や年末調整に関わる書類は、行政や税務署に提出する公的な公文書です。
そのため、行政機関へのデータ登録や各種手続きは原則として「戸籍名」で行う必要があります。

ただし、現在では健康保険証や年金通知書等について、従業員からの申し出があれば「旧姓併記」の手続きを行うことが可能となっています。
人事労務担当者は、ベースとなるシステム管理やマイナンバー連携は戸籍名で行いつつ、希望者には旧姓併記の申請手続きを行うという、実務上の柔軟な対応が求められます。

社内ツール・ITインフラ・備品への影響

実務上、従業員が最もストレスを感じやすく、情シス(情報システム)部門との連携が必要になるのがこの領域です。

・メールアドレス・アカウント名
・ビジネスチャット・グループウェア

Slack、Teams、Google Workspaceなどの表示名設定。
・社内備品
名刺、社員証、セキュリティーカード、入館証の氏名表記。

対外的な取引・サイン権への影響

営業職や購買職、あるいは役職者の場合、取引先との契約書や見積書、稟議書にどちらの氏名で署名・捺印するのかという問題が発生します。

ビジネス通称(旧姓)での署名も民法上直ちに無効となるわけではありませんが、取引先から「戸籍名と異なるため、本当に役職者本人であるか証明してほしい」と求められた際、会社の証明書や規程(通称名使用の認可規定)が未整備だと、確認に時間がかかりビジネスの足止めを食うリスクが生じます。

実は「現在の旧姓・通称名利用」でも起きている運用のトラブル事例

ルールが曖昧なまま旧姓利用をスタートしてしまった企業で、実際に起きている典型的なトラブル事例を3つご紹介します。
自社の現状と照らし合わせてみてください。

①給与振込エラーと緊急対応の発生

状況
結婚後も旧姓の「相沢(あいさつ)」のまま営業部で活躍していた従業員。人事システム上の登録名も「相沢」に変更なし。

トラブル
ある月、銀行口座の名義を戸籍名に変更したにもかかわらず、人事部への報告を怠っていた(本人は社内で旧姓として通しているため、口座名義だけ変えればいいと思い込んでいた)。
結果、給与振込の際に「名義不一致」で組戻し(エラー)が発生。
経理部と人事部が原因究明に追われ、当日の再振込のために手作業での緊急対応を強いられた。

②健康保険証の不一致による医療機関での混乱

状況
社内での通称名使用を全面的に認めており、社内名簿や座席表、内線表はすべて旧姓で統一されていた。

トラブル
当該従業員が体調を崩し、会社の健康保険証を持って病院を受診。
しかし、健康保険証の記載は「戸籍名(新姓)」であり、会社の緊急連絡先に病院から連絡が入った際、電話応対したスタッフが「そんな名前の社員はいません」と答えてしまった。
本人のプライバシーや緊急時の安全確認において、大きな問題となった。

③退職・転職時のキャリア証明(リファレンスチェック)での齟齬

状況
在籍中の5年間、すべての社内実績や対外的な発表を「旧姓」で行っていた従業員が退職。

トラブル
転職先企業から、前職での在籍確認やリファレンスチェック(実績確認)が入った際、人事部が保有する公的な退職者データ(戸籍名)と、転職先が提示してきた氏名(旧姓)が一致せず、「在籍していない」と誤認されかけた。
従業員のこれまでのキャリアを正当に証明できないリスクが発生した。

人事制度・就業規則は対応できる?今すぐやるべきチェックリスト

これらの一見小さな、しかし現場に大きな負荷をかけるトラブルを防ぐためには、場当たり的な対応を止め、「規程(ルール)」と「システム(管理方法)」をあらかじめ整備しておく必要があります。

以下に、人事・労務担当者が今すぐ自社の体制をチェックするためのリストを用意しました。

【就業規則・社内規程】のチェック

旧姓(通称名)使用規程の有無
単に就業規則に「会社が認めた場合は旧姓を使用できる」と書くだけでなく、具体的な申請手続きや適用範囲を定めた独立した「規程」が存在するか。

変更・報告義務の明確化
戸籍上の氏名、住所、家族構成、銀行口座名義に変更があった場合、いつまでに(例:変更後○日以内)会社に届け出なければならないかが就業規則の義務規定に盛り込まれているか。

慶弔見舞金や永年勤続表飾の基準
これらのお祝い金や表彰状を出す際、宛名は「戸籍名」にするのか「旧姓」にするのかの運用方針が決まっているか。

【人事システム・マスターデータ】のチェック

「一物二名」への対応
自社の人事システムや給与計算ソフトは、1人の従業員に対して「戸籍名」と「通称名」を同時に保持し、それぞれ正しい帳票(全銀データには正しい口座名義、社内名簿には通称名)に出力できる機能があるか。

マイナンバーとの紐付け管理
マイナンバーは完全に「戸籍名(住民票に記載の氏名)」に紐付くため、旧姓での管理画面とマイナンバーの保管場所が安全かつ正確にリンクしているか。

【現場実務・インフラ】のチェック

名刺・社員証の発行費用負担
改姓にともない名刺や社員証を再発行する場合、その費用は会社負担とするのか、本人の希望による場合は自己負担とするのかのルールがあるか。

メールアドレスの移行ルール
氏名変更にともないメールアドレスのアドレス(文字列)そのものを変更するのか、あるいは旧アドレス宛のメールを新アドレスに自動転送する期間をどれくらい設けるかの運用マニュアルがあるか。

本当に必要なのは「制度変更」ではなく、変化に耐える「運用設計」

ここまで、規程の作り方やシステム上の注意点など、細かい実務の話をしてきました。
しかし、人事・労務の責任者・担当者の方に最もお伝えしたい本質は、「夫婦別姓への対応とは、単に名前をどう呼ぶかというルール変更の問題ではない」ということです。

真に求められているのは、社会の変化や従業員のライフステージの多様化に合わせて、「労務・人事制度全体の運用をどう再設計(アップデート)するか」というグランドデザインの視点です。

今後、企業が取り組むべき運用のロードマップは以下の4つのステップに集約されます。

①ルールの標準化(ガバナンスの確立)

誰が・どの範囲まで旧姓を使えるのか、基準を明確にします。
上述した規程を設け、「ここまでは旧姓OK、ここからは戸籍名必須」という明確な境界線をバックオフィス全体で共有します。

②従業員への適切な周知と説明

「うちの会社は旧姓を使っていいんだ!」と従業員が喜ぶだけで終わらせず、「ただし、社会保険の登録や給与口座は原則戸籍名ベースでの確認が必要になるから、名義変更時はすぐに報告してね」という運用の注意点や報告義務をセットで周知・啓発することが、トラブルを未然に防ぐ鍵です。

③データのマスター管理(一元化)

人事部がエクセルで「旧姓リスト」を別管理するようなアナログな手法は、個人情報保護(セキュリティー)の観点からも、業務効率の観点からも限界があります。戸籍名と通称名のマスターデータを安全かつ正確に一元管理できる体制を整えます。

④変化を前提とした人事システムの選定

今後、国の法改正(選択的夫婦別姓の法制化)が行われた場合、現在の「通称名使用制度」はさらに変わる可能性があります。
その際、柔軟に設定を変更できる、あるいは時代の法改正に自動でアップデート対応してくれるクラウド型の人事・労務システム(HRテック)をあらかじめ選定・リプレイスしておくことが、長期的なコスト削減に繋がります。

まとめ:夫婦別姓を切り口に「時代の変化に対応できる会社」へ

「夫婦別姓」という、一見すると特定の従業員だけに関係のあるテーマを掘り下げてみると、実はその背後には、人事・労務が向き合うべき「多様な働き方への対応」という大きなテーマが横たわっていることがわかります。

現代の人事マネジメントにおいては、夫婦別姓や旧姓利用だけでなく、以下のような様々な「時代の変化」への対応が同時に求められています。

・育児や介護、治療と仕事の「両立支援」
・LGBTQ+(性的マイノリティ)の従業員への福利厚生や通称名適用の拡大
・テレワークや副業・兼業を前提とした、場所や時間に縛られない「柔軟な就業規則」
・シニア雇用の拡大にともなう「評価・賃金制度の再構築」

これらすべての課題に対して、その都度「場当たり的」に対応していては、現場の労務担当者のリソースはいくらあっても足りません。

法改正の話を「国が動き出してから考えること」と後回しにせず、今ある実務課題(旧姓利用の整備など)をフックにして、「どんな社会の変化が来ても、柔軟に適応できる人事体制」を今からバックキャストして構築していくことこそが、これからの人事・労務部門に求められる戦略的役割(戦略人事)なのです。

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【参照元】
協会けんぽ|通称名記載及び旧姓併記の取扱い
一般社団法人全国銀行協会|結婚に関する口座の手続き
法務省|選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について